2010年01月14日

左勝手の小刀


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島内に尊敬する職人さんが何人かいる。
その内の一人、Fさんという方から10年程前に頂いた小刀。
木工旋盤用のバイトを作り直したもので、Fさんの工房に寄ったときに左勝手の小刀を持っているかと聞かれ、持ってないと答えると、これあげるよ、と手渡してくれた。

当時私は島で民芸調の家具やお土産を作る工房で働いていた。
初めて彼に出会ったのはその工房に勤め始めてまだ1週間もたっていない頃で、木のことを覚えようと昼休みに材料置き場にある原木を一つ一つ観察していたときのこと。
その工房で以前工場長を努めていた彼は、独立して自分の工房を持っていたのだが、仕事が暇なときにちょくちょく遊びにきていた。
人懐っこい笑顔で近寄って来た彼は、他所から島に来て間もない、素性のわからない新人に対して懇切丁寧にいろいろ教えてくれた。
それからは何度となく彼の工房に遊びに行っては話を聞いたり、実際に作業を見せてもらったりしていた。

その後、私も独立して自分の工房を構えることになった。
工房を構える時も機械の選択や材料の確保などでお世話になったのだが、自分自身の仕事に夢中で徐々に疎遠になっていった。
工房を立ち上げて半年ほど経った年の暮れ、彼がC型肝炎からくる肝硬変を患っているとの話を島の人から聞く。
工房に行ってみると、半年前には考えられなかったような精気の失せた土気色の顔をした彼がいた。
そのとき彼と何を話したかあまり覚えてないのだけれど(というより何を話していいのかわからなくて、しどろもどろだった気がする。)、話題の途切れたときに前述のやりとりがあり、この小刀を頂いた。
年が明け、ほどなくして彼は静かに息をひきとった。

あまり出番の無い小刀ではあるけれど、この小刀を使う度に雨上がりの材料置き場で指を泥で真っ黒にしながら地面に絵を描いて木のことを話してくれたときの彼の笑顔や、彼が亡くなる1年前に頂いた年賀状に「ともに競い合ってがんばっていこうよ。」と書かれてあったことを思い出す。

あれから10年。
年齢だけは彼に追いついたのだけれど、技術も人間もまだまだ追いつけていない。


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posted by flowers at 21:55| Comment(2) | TrackBack(0) | 工具 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
木の話、
次の人に語ってあげてくださいね。

もらいものって、
大切にしますよね。 なんでって
もう、もらえないかもしれないから・・・

大事に使ってあげてください。
Posted by thuu at 2010年01月15日 21:36
ありがとうございます。
ただ私は人に語れるほどのものを持っているかどうか・・・。

この小刀を頂いた方とはものづくりに対する考え方、方向性とも全然違っていたのですけど、それでも若造の生意気な考えを否定することはせず、悩んでいるときには自分の持っている知識と経験の中から的確な助言をくれたりしました。

そんな方から頂いた道具はいろいろな意味で重いです。
Posted by flowers at 2010年01月15日 22:12
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